ぼたもち(仮)の重箱

躁うつ病、万年筆、手帳、当事者研究、ぼたもちさんのつれづれ毎日

始末書寸前の仕事

(noteに書いたの転載するよ!)

 

 

それはまだ、私が二十代の頃だったか。

 

だったか、じゃない。

 

二十代後半、三十間近の頃の話です。

 

とある職場で安月給で(そんなことないむしろ高給)こき使われていたあの頃。毎日毎日会議の議事録を作り、エライ人に電話連絡し、ちょっとボケたジイさんや底意地の悪いオバさんにヘイコラし、影ではヤケになってタバコばかり吸っていたあの頃。下戸なのでウーロン茶とジンジャーエールバヤリースでクダを巻いていたあの頃。そう、それはまだ、1990年代。バブルが弾けてしばらくの時間が経ち、まだ名残りがあった頃。

 

我が法人の機関紙で、エライ人ふたりで対談をしてもらい、それを掲載することになりました。その機関紙の編集は全て私の仕事。一年に4回出すために、常にキリキリ舞い。もっと楽な企画なら作るのも大したことはないのに、エライ人たちの対談記事となると、ちょっとばかり一苦労。

 

しかも時期は残暑厳しい9月のはじめ。涼しい職場内ではなく、エライ人たちが日曜日に通っている教会まで行くことになったのでした。その教会は不便な場所。職場からバスで10分、電車で20分、さらにバスで15分。

 

とにかく対談記事なので、音声記録が必要だ。しかし時は90年代、まだボイスレコーダーもなく、インタビュー用のポケットサイズのラジカセを二つも持って、酷暑の中を参上しました。

教会に到着してみたら暑いのなんの。冷房ないのかよ。この教会はポンコツかよ。クーラーの電源を見たら、一応入っています。エライジイさんたちは、「涼しいよ、それでいいでしょ」。ああそりゃあんたたちはこれでいいだろうよ老いぼれだから暑さ感じないんだよねアタシ若いの暑いのよ!!!

 

暑い!!!

 

しかし相手はエライジイさんたちふたり。神よりもエライんです(場所は教会だけど)。とにかくニコニコしながら、気持ちよく対談してもらわねばなりません。私は小さなラジカセを二台、録音スイッチを入れて、スタンバイしたのでした。

 

あの、録音する「カセットテープ」って知ってます? 知らなかったら目の前の箱か板でググれ。

 

さて、対談のテーマは法人の公的な財政問題について。どのような道で収入があり、どのように支出するか。収入のかなりの部分が寄附金で賄われている法人なので、みんないつもマジありがとこれからも寄附金ヨロシコ!……ということを表現する対談でした。くっそつまんねえ内容の対談です。私、興味ない(担当者にあるまじき)。くっそ暑いしやってられっかこんなこと。しかもこのあと直帰じゃねえし。夕方だっつーのにもう一度職場戻れとかどんな罰ゲームよこの暑いのに!

 

とは言え、エライジイさんの話が意外と面白かったのです。普段なら金の話とかメンドクセな私でしたが、柄にもなくメモ取りながら聞き入ってしまいましたね、ジイさんやるじゃん。面白かったよ、いい記事できるわマジありがと!

エライジイさんふたりを置いて、そんじゃまた次の会議で〜……と教会を後にした私。結構イケてる対談だったので、紙面を頭の中でざっと構成しながら、バスと電車を乗り継いで職場へ帰って来たのでした。

 

さて、と。まずはテープ起こしでもしようかね。テープ2本も取ってもったいなかったけど、まあいっか。

 

ってね。

 

 

 

 


テープから、何の音も聞こえないしね。

 

 

 

 

いや、待って。

 

ちょっと待って。

 


困るんですけど!!

 

 


いやいやいや、もうひとつテープ録音してるから!

 

 

 

 

……そっちも何の音も聞こえないしね。

 

 

 

 

 


滝のように血の気が引きましたね。

 

ザザーッて音が聞こえました、マジで。

 

そうです、私は二台も持っていったラジカセで、両方とも録音を失敗していました。なんで。どうして。ちゃんと赤いスイッチ押したよね。なんで音がしないの。なんかの夢か。悪い夢か。何度再生スイッチ押しても音がしない。早送りしても巻き戻ししても何も聞こえない。どうしてよ。なんでよ。暑い中がんばったのに。がんばって行ったのに。がんばって録音スイッチ押したのに!!!(私ががんばったのは、録音だけな)

 

はっきり言って録音要員で参上したワタクシ。録音できてなかったら、何の仕事もしてません。ていうか、テープ起こしできないじゃん。対談記事どうすんの。今からもう一度教会まで集まってもらって、同じこと話してもらうんか。できるわけねえだろそんなこと!!

 

 


……アタシ、今日、死ぬのかな……

 

 


いやいやいやいや。

 

死んでる場合じゃないんですよ。今日の対談を聞いているのは私だけ。この機関紙作るの私だけ。この部署にいるの私だけ。私、事務長直轄。ついでに言えば学長も直轄(職種がバレたけどまあいいや)。とにかく私のカバーしてくれる人いない。私ひとり。ひとりぼっち。誰も助けてくれない。絶海の孤島。百年の孤独

 

 


いざ行かん。マイマッキントッシュ

 

 


私は、死にものぐるいで頭を働かせて、柄にもなく取ったメモを見ながら、対談の捏造を始めました。おお、何という早ワザ。大雨のようにバシャバシャとキーボードを叩き続ける私。そう、このことは誰も知らない。この世に私だけ。私が黙ってこの対談記事を完ぺきに仕上げることさえできれば、この法人はみんな幸せハッピー。

 

後にも先にもあれだけアタマ回したのは初めてでしたね。

 

都合40分で、記事は仕上がりました。マジです。残業代も出る時代ですし。ああ、いい時代だったなあ。残業代。残業の苦痛が減ります、残業代。

 

プリントアウトした記事をエライジイさんにFAXしました。ええ、まだFAXですからね。

 

10分後にジイさんから電話かかってきましたが、めちゃくちゃ褒められました。「いい記事になったねえ」ってね。

 

 


ごめん、ジイさん。嘘、つけないよ。

 

 


私は正直に言ってしまいました。テープ失敗したんです、ごめんなさい。でも、内容はこれで合ってるはずです。私もちゃんと聞いてましたから。ジイさんはビックリしていましたが、許してくれました。ごめんね、ジイさん。ホントごめん。

 

その後、留守にしていた事務長が帰ってきたので、一部始終をこれまた正直に話しました。

 

 


まぁ、ちょっとだけ叱られました。

 

 


でも、原稿できてたので許してもらえました。

 

 


この体験で私が得た教訓は、

 

 

「くっそ暑いからってイライラしたり腹を立てたりしてはいけない、落ち着け」

というものでした。

 

 


これから、夏です。

 

暑くなります。

 

お仕事の皆さん、どうか落ち着いてください。

 

暑さによるイライラで、成功するものが突然ドン底になる場合もあります。

 

 


大丈夫、落ち着いて。

 

 

 


そして、熱中症には気をつけましょう。